書きたい作品と、作家としての作品の違いで思い悩んだ時代がありました。直木賞作家・角田光代【前編】

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TKY201312100168出典:http://www.asahi.com/and_w/fashion/TKY201312100170.html

 1967年神奈川生まれ。23歳のとき、海燕新人文学賞を受賞しデビュー。その後、野間文芸新人賞、坪田譲治文学賞、婦人公論文芸賞、川端康成文学賞、そして直木賞など数々の賞を受賞。話題作『紙の月』の原作者としても知られる角田光代さんの生き方をみつめます。

ワタシのあの頃
純文学作家としてのデビュー前。「もう書かなくてもいい」と言われて

 流行作家として順風満帆なイメージの角田さんですが、19歳のとき、ある文芸誌に応募して最終審査で落選。そのときの編集者の紹介で、ジュニア小説を書いていた時代がありました。
 ところが、年々部数を増やすジュニア小説の中にあって、角田さんの書いたものは、まったく売れませんでした。

(前文略)ジュニア小説の世界を知らなかった私は、部数をキープしなければいけないとか、まったくわからなかったんです。書きたいものを書いてどうしていけないの? って思っていた。そしたら、(中略)編集者に靖国神社に呼び出されて、紙コップのコーヒーを渡されて、「もう書かなくていい」って言われたんですよ。
出典:http://www.sakuranbo.co.jp/livres/sugao/vol.02.html

 小説を書き始めて2年め、初めて受けた洗礼でした。その経験から、角田さんは売れっ子になっても、ほとんど仕事を断らず、たくさん引き受けるようになったといいます。

 その後、『海燕』で新人文学賞を受賞した角田さんは、純文学作家としてデビューします。中編小説、連作小説、短編、そして長編と幅広い分野に挑戦し、数々の文学賞を受賞しました。けれども心の中には葛藤がありました。

何も考えず、ただ何かを書きたくて作家になろうと決めてなってしまったので、目指すスタイルがなかったんです。(中略)あまりにもそういうものがなかったので、書くのがどんどん苦しくなってくると方法を変えよう、となっていった。(中略)何かおかしい、変えなきゃ変えなきゃ、このままだと自分が苦しい、ということの繰り返しでした
出典:http://www.nikkei.com/article/DGXZZO49656240X11C12A2000000/

 作家という職業を選んだ喜びは、「誰にも気兼ねなく、正々堂々と小説を書けること」という角田さんにとって、“書く発注”がある喜びは、同時に覚悟にも繋がったのでしょう。
 迷いと葛藤を繰り返しながら、やがて30代へ……角田さんは転機を迎えます。

変わったきっかけ
30代。ページをどんどんめくりたくなるような小説を目指して

 自分の文章を「無個性」と感じた角田さんが、苦しみながら文体を変え、平明な言葉で複雑な物語を展開し……そんな中で生まれたのが、2003年婦人公論文芸賞を受賞した『空中庭園』でした。 

「空中庭園」の前までは、たぶん自分のことを書いてたんですよね。自分の文体を意識もしていたし、文体とは何かもすごく考えていた。ただ、それを究められない中で、まずは「空中庭園」を書いて楽になったんです。
出典:http://www.nikkei.com/article/DGXZZO49656240X11C12A2000000/

  
 続けてまたひとつ、気づきを得る出会いがありました。

そこでたまたま「対岸の彼女」の仕事を頼んでくれた編集者に「ページをどんどんめくりたくなるような小説を」と言われたのが、本当に新鮮だったんです。そんな小説ってあるのか、と。考えてみるとあるんですね
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXZZO49656240X11C12A2000000/

  

(前文略)私がいままでやっていた文芸誌での仕事は、ページをめくらせたくないものだったんですね。(中略)でも、こちらの雑誌では違うものを求められている。一文で立ち止まらせてはいけないんだ、と思ったときに、一文というものにあまり凝りすぎないもの、というように発想は変えてきました。
出典: http://www.sakuranbo.co.jp/livres/sugao/vol.02.html

  

 そうして書いた『対岸の彼女』で、角田さんは2005年直木賞を受賞しました。けれども角田さんは止まりません。平日の9時から5時はパソコンに向かって文章を書く生活を続け、なんと締め切りの半月前に原稿が上がっていることもあるとか。「時間がなくて思い通りに書けないことが1番恐いから」だと彼女はいいます。

私、たぶん仕事が好きなんですよね。(中略)さまざまな仕事論があると思うんですが、その中で、私はものすごくまじめにやりたいんです。例えば、100やって(返ってくるのは)50くらいかな、と。100やって100返ってくるのは嫌なんです。100返ってくるのも何か信じられない。その時に、100やったのになぁと思わないのがいい仕事だと思っていて
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXZZO49656240X11C12A2000000/

  

 角田さんの勤勉さは、およそ“作家”らしからぬようにも思えます。“作家”には、もっとワガママなイメージがないでしょうか。書けなくて逃げ出したり、気難しく感情的になったり……。
 「書かずに悩めない」と言い、悩みの推移さえ作品に刻みつけていくという角田さんは、そんなイメージをひっくり返すくらいに、生まれながらの作家体質なのかもしれません。

(mami)
▶▶【後編へ続く】
読者に届くリアルな感情。まだ、書いてみたいものがある。直木賞作家・角田光代【後編】
〈 次回は5月27日(火)更新予定です 〉

新たな “視点” で、
昨日よりもちょっといいワタシに。
―――― eyes.+