愛をください、愛を歌わせてください。伝説のディーバ、マリア・カラス【後編】

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出典:http://www.greecejapan.com/jp

前回は、オペラ歌手として名を馳せるまでのマリア・カラスさんを見つめました。今回は、マリアさんが遺したメッセージとはなにかを見つめます。

ワタシの信念
最後まで愛を求めた歌姫の功績は、今もなお

心身の疲労を愛で補おうとしていたマリアさんでしたが、求めれば求めるほど、負荷となってしまう日々……。

マリアさんが歌えば、夫となったメラギーニさんは喜びましたが、体は悲鳴をあげていたのです。

歌うことに妥協をしないことで定評を得ていたマリアさんは、スカラ座の女王として君臨していました。
でも、喉に負担をかけすぎたおかげで不安定な発声が増えて、観客を落胆させることも。
発声が難しい音域でもごまかしはせず、無理に歌っていたせいです。

得意の情緒表現だけでは、残念ながらオペラ歌手として劇場に立てません。
舞台でひとつの公演を演じきることも不安視されるようになり、マリアさんの胸中も穏やかではありませんでした。

このころ、仕事も私生活も不安定だったマリアさんですが、二度目の恋をみつけました。

当時、三十代半ば。
それはそれは、とてもスキャンダラスな出来事でした。
夫・メラギーニさんの存在がありながら、富豪と呼ばれたオナシスさんとの親密な交際。
つまり、『不倫』を意味する関係です。ゴシップとして扱われないわけがありません。

でも、マリアさんにとってオナシスさんとの交際は、利己的な思惑のない、とても純粋なものでした。
夫が与えてくれるのは、富と名声を得るための愛だと気づきはじめていたマリアさんは、わずかな時間でオナシスさんに夢中になり、
歌手であることを抜きに、純粋にひとりの女性として愛してもらえることに、喜びを感じます。

夫への愛は確かなものでしたが、それ以上の愛を見つけてしまったマリアさんは、離別の道を選択し、オナシスさんの元へ行くことを決意しました。

やがてオナシスさんと生活を送るようになり、私生活では『ごく普通の女性』になれると信じていました。
ところが、それは束の間の夢。

オナシスさんは、マリアさんの私服や髪型、立ち居振る舞いに細かな注文を付けるようになりました。かねてからプレイボーイとして名高いオナシスさんですから、好みの女性を身近に置きたいという願望をあらわにしたのでしょう。

太りやすい体質や、体型などをコンプレックスとして抱えていたマリアさんは、オナシスさんに嫌われまいと必死に応えようとしました。
過酷なダイエットも噂されていましたが、無理な歌唱も、ダイエットも、すべては愛のため。

歌いきることが難しい役を演じる時も、すべては愛が源だと宣言するほど、すべては愛のため。

「意思の力ではありません、愛です!」
出典:マリア・カラス」ユルゲン・ケスティング著・鳴海史生 訳/アルファベータ

 

誰かを愛して、愛されたい。
歌も、歌うことへの愛情を表現したい。
願いはそれだけです。

マリアさんは決して高望みはせず、ただ純粋に愛を求めただけなのに、さらなる過酷な運命が待ち受けていました。

オナシスさんの裏切りです。
マリアさんは結婚し、家庭に入ることを夢みていましたが、オナシスさんの関心は別の女性に向かっていたのです。

マリアさんと距離を置いた途端、オナシスさんは別の女性と入籍。
この報道に、マリアさんはとうとう耐えられなくなりました。

すっかり憔悴したマリアさんは美声を枯らし、間もなく、ひっそりとアパートの一室で生涯に幕を閉じることに。

晩年は歌唱について批判的報道が白熱していましたが、没後に改めて独特の歌声と歌唱法が評価され、マリアさんの名を取ったコンクールが設立されるなど、世界的にマリアさんの功績をたたえてます。

純粋に、当たり前のように愛されたい一心で歩んだ人生。
愛と引き換えに裕福になろうとか、有名になろうとしていたのではありません。
母の愛、友の愛、恋人の愛。
マリアさんが欲したのは、ごく普通の愛です。

私の宝物のあなた、私と同じくらい私を愛してください。ほかには何もお願いしません。
出典:真実のマリア・カラス  レンツォ・アッレーグリ/小瀬村幸子 訳/星雲社

 

最初から最期まで人生に求めたもの、訴えたものは愛でした。
誰かへの愛情をおろそかにしてはいけないと、マリアさんが教えてくれた気がします。


とても華やかな人生とは言いえませんが、辛い思いをしても誰かを愛そうとする健気な思いに心打たれました。
母親から注がれるはずの愛情に飢え、異性からの愛情も、私利私欲のための偽りであったり、火遊びの一環であったりと、美しい形の愛とは言えません。それでも、マリアさんは愛されたいと願い、努力しました。
芸術性を高めて維持しなければならない歌手としての生命は短くなり、私生活も荒れてしまう結果でしたが、『本当の自分を愛して欲しい』と願い、将来の決断を愛に委ねる姿は、どこか羨ましくもあります。
愛だけでは生きられないという世界と、愛無しには生きられない紙一重の世界に、マリアさんは生きていたのですね。
たとえ茨の道だったとしても、マリアさんのように、純粋に愛を求めて生きてみたいな。
(たまさき りこ)

キラリと輝く名言

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▶▶【前編を読む】私を愛して。真実の愛と完璧を求めたディーバ、マリア・カラス【前編】

新たな “視点” で、
昨日よりもちょっといいワタシに。
―――― eyes.+
【参考記事】
・「真実のマリア・カラス」レンツォ・アッレーグリ著/小瀬村幸子 訳/星雲社
・「マリア・カラス」 ユルゲン・ケスティング著・鳴海史生 訳/アルファベータ