30代からの本気、地方住まいでも一旗あげてやる! ベストセラー作家湊かなえ【前編】

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湊かなえ写真1
出典:https://www.kinokuniya.co.jp/c/store/Umeda-Main-Store/20120714174157.html

 空前の大ヒット小説『告白』の著者、湊かなえさんが作家を志すきっかけとなった30代の壁。今回は、湊さんが「もやっとした時期」をどう乗り越えたのかを、意外な素顔と共に見つめます。

ワタシのあの頃
本は多忙な母との繋がり方のひとつ。節目に出会った本に影響された青春時代

 作品を読み終えたあとは、じっとりとした汗をかきながら、登場人物ひとりひとりに思いを巡らせて言葉を探してしまう。おもしろかったの一言では言い表せない、臨場感あふれるミステリー小説を生み出す湊さんは、幼いころから多くの本を読んできました。

 お母様は留守番をする湊さんのために、年相応の本を与え、帰宅後は感想を掘り下げて聞くなど、親子のふれあいのきっかけにしたのでしょう。
 この親子のふれあいの時間が、湊さんの読む力、書く力を鍛えます。

 自分も本が好きだし、子供は本を読めば感性が豊かになると思っていたのかもしれません。なので、毎回感想を言わせるんですよ。途中で犯人が分かったものでも、「途中でやめないで最後まできちんと読みなさい」って言われました。他の登場人物がどうなったのか、最後がどうなったのか、確認するかのように訊かれましたね。
出典: http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi113_minato/index.html

 『怪盗ルパン』シリーズで推理物小説のおもしろさに魅了され、江戸川乱歩やアガサ・クリスティの作品を好んで読む年頃になった湊さんは、とある本に出合いました。
 この本が、小さな島での生活から海を越えての生活へと、湊さんの背中を押すことになるのです。

 一冊目は、森村桂さんの『天国にいちばん近い島』です。ニューカレドニアの旅行記なのですが、これを読んで「いつか絶対南の島に行くんだ!」と思いました。青年海外協力隊でトンガに行ったことがあるのですが、この本の影響が大きかったと思います。
出典:http://www.sinkan.jp/special/interview/bestsellers57.html

 『天国にいちばん近い島』の舞台、トンガに憧れた湊さんですが、すぐに本の影響を受けて飛び出したわけではありません。湊さんは、大学に進学して家庭科の教員免許を取得して、アパレルメーカーに就職しました。
 ところが、通勤途中で目にした青年海外協力隊のポスターに興味を持ち、赴任先にトンガがあると知ると、仕事を辞めて海を渡ったのです。

 湊さんは“憧れの南の島”でも、読書を欠かしませんでした。もちろん、島の人たちの生活を尊重しながら、栄養指導と教育をこなしました。

 やりたいと思ったら、すぐに行動を起こすほうなんです。もともと田舎育ちで、島を出て旅行一つ行くのも大変だと思っていたのが、実際に出てみれば意外と簡単だということがわかって、それからは外に外にと(笑)。
出典: http://books.rakuten.co.jp/event/book/interview/minato_k/

 文字を綴る人は、おとなしい性格だ。
 こんなイメージ、どこかにありませんか? 湊さんの作風をご存知の方は、そう思っていたのではないでしょうか。
 でも、湊さんは違うようです。学生時代はサイクリング同好会で汗を流し、単身トンガに向かうような、アグレッシブなタイプです。このように前向きな性格が、湊さんの人生を変えることになるのです。 
 やりたいと思ったら、行動してみる。これは湊さんの言葉ですが、行動しなければ何も変化は起きませんよね。そのきっかけが本だなんて、素敵じゃありませんか。
 あなたにも、運命の一冊、心当たりありますか?

変わったきっかけ
田舎の主婦で終わっていいの? 悔しさをバネに、好きなことで一旗揚げてやる!

 帰国して結婚をしてからしばらくのこと。本からも少し離れた日々の中で、湊さんはこの先の人生のことを考えました。
 何も残らない人生でいいのだろうか。平凡な主婦で終わっていいのだろうか……と。

 読書を通じて培った想像力から、何か書いてみようとパソコンを立ち上げたのは、30歳を過ぎたときでした。はじめは脚本家を志しますが、地方暮らしでは脚本家として仕事をつなげるのは難しいのだよと言われてしまい、非常に悔しい気持ちになったそうです。
 このとき、湊さんはあきらめませんでした。むしろ、悔しい思いをしたことで、湊さんに火が点いたのです。

 それがとにかく悔しかったんです。未だに東京にいないとできない仕事があるのかと思うと本当に悔しくて、「絶対に小説を書いてやる! 映像にできないものを書いてやる!」と意地になっていたので、難しさは感じませんでした。負けず嫌いなんですよ。
出典:http://www.sinkan.jp/special/interview/bestsellers57.html

 負けん気ひとつ、湊さんの頭の中で進行していたストーリは、わずか2週間で『聖職者』という作品として生み出されました。
 そして、この作品で、湊さんは作家の道を切り開きました。第29回小説推理新人賞を受賞し、連作となる『告白』で世間を賑わせることになったのです。
 
 ここで、湊さんの当初の目的は達成したかのように見えますが、ヒット作を輩出してしまったことにより、新たな課題が課されます。
 映画化もされ、執筆依頼やインタビューの依頼が舞い込む生活へと一転しましたが、次へ繋げなければならないのです。

 デビューした後の目標はみんなに名前を知ってもらうことでしたが、次の目標は「『告白』の湊さん」の「『告白』の」を取ることなんです。
出典: http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi113_minato/20110427_6.html

 作風から“読んだあとに嫌な気分になるミステリー、イヤミス”という新しいカテゴリーを広めた立役者となりましたが、湊さんの中には焦りがあったのか、過密なスケジュールのおかげで日常生活にちょっとしたミスが増えてしましました。
 そこでスケジュール管理の方法を見直して、ゆとりを取り戻しつつ執筆を続けることに。

 ライフスタイルを模索しながら出版した、次作の『少女』以降も大人気ですが、その分つらい思いも経験します。
 アイデアが浮かばないと、物語は進行しません。とてももどかしい時間ですが、締め切りという約束があるので、立ち止まってはいられません。
 プレッシャーの中で、どうしても進めなくなったとき、湊さんはとりあえず動くのだと言います。

 外に出て歩いたり、家で空想したり、あとはとりあえず手を動かしてみることもあります。翌日全部消すことになっても、何か書かないことには進みませんし、書いているうちに「ここは使える」「これはいいかも」という部分が出てくることもあります。もちろん「これはダメだ」となることもありますが、そんな時はなぜダメなのかを考えるようにしています。
出典: http://www.sinkan.jp/special/interview/bestsellers57.html

 何かに行き詰まったとき、原因を探るために考える、行動する。こうした乗り越え方は、負けず嫌いな性格が後押ししているのではなくて、お母様との本の感想の語らいの時間が活かされているのでしょうね。何が、どうしたから、こうなったのか。
 そんなことを考えながら、日常の生活でぶつかる困難の解決にも、困難を見つめることは有効です。
 物語を書くことは、日常と変わらないのです。日常があるから、人の心に入り込む物語が生まれるのです。

 (たまさき りこ)

▶▶【後編へ続く】誰に、なにを伝えるか。進化し続ける作家魂。作家・湊かなえ【後編】
〈 次回は6月10日(水)更新予定です 〉
 

新たな “視点” で、
昨日よりもちょっといいワタシに。
―――― eyes.+