読者に届くリアルな感情。まだ、書いてみたいものがある。直木賞作家・角田光代【後編】

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出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4758438455/ref=cm_sw_r_tw_dp_TOvuvb1M4EPFD

 
直木賞作家の角田光代さん。前編は「仕事」として執筆する作品と、書きたい作品のギャップに悩み、試行錯誤の苦悩をお届けしました。後編は、何を伝えるかを見つけた今とこれからの希望を、見つめます。

今と、これから
創作の基準は“リアリティ”、動機は“怒り”。夢は60歳までに“紀行文”

 130万部を越えるヒット作となった『八日目の蝉』は不倫相手の赤ん坊を誘拐した女性の逃亡劇と、誘拐された少女のその後を描いた長編小説です。
 角田さんは、この作品を通して「母性とは何かを考えたかった」といいます。

 そう考えたきっかけは“怒り”でした。

(前文略)幼児虐待がとても多い時期だったんです。(中略)コメンテーターや新聞などは、なぜ母性があるのにそういうことをするのかと、母性があることを前提に話をしているんですね。
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXZZO49656240X11C12A2000000/

 

実の母親なのになぜ虐待ができるのかという論調が非常に多いが、そこで父性は問われないのだろうかとか、母性というものをあまりにも当たり前に女性に押し付けているのではないか。そのことが女性たちを苦しめているのではないか
出典: http://jp.reuters.com/article/entertainmentNews/idJPJAPAN-19480720110210

 

(前文略)いつも持っているのが、ものすごい怒りなんですね。でも、この怒り、喜び、悲しみなりが、世の中と自分を繋いでいる繋ぎ目みたいなものだと思うんです。それがないと小説が書けない。小説を書くときのとっかかりになるんですね。
出典:http://www.sakuranbo.co.jp/livres/sugao/vol.02.html

 
 
 いつも彼女が持っているという“怒り”、世の中と角田さんを繋ぐ“感情の繋ぎ目”は、話題作『紙の月』にも反映されていました。

著者の角田はこの作品を執筆する際、(中略)歪なかたちでしか成り立つことのできない恋愛を書こうと決めていたが、実際のニュースで銀行員の女性が使い込みをしたという事件を調べると、大抵が“男性に対して貢ぐ”という形になっていることに違和感を覚えた。そして、“お金を介在してしか恋愛ができなかった”という能動的な女性を描きたいという思いが湧き上がったと話している。
出典: http://ja.wikipedia.org/wiki/紙の月

 

 ミリオンセラー作家となった角田さんですが、書くときに最も大切にしていることは? 今、読んで面白いと思う本は? という質問に、次のように答えています。

やっぱり、リアリティーですね。自分にとってウソっぽくないことを信じるしかない。(中略)どうしても会わない男女をぶつけて会わせるとか、それはズルじゃないですか。だから会わなそうな2人を会わせる何かを考える。(中略)それは私なりの基準かもしれない。
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXZZO49656240X11C12A2000000/

 

はっとするものですね。(中略)こんな話を書きたい、じゃなくて、中で流れている空気がいいなと思わせてくれる小説が面白くて。(中略)イーユン・リーさん※の「黄金の少年、エメラルドの少女」を読んでいる時に、あぁ、やっぱり小説はいいな、書きたいな、と思ったんです
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXZZO49656240X11C12A2000000/

 
※アメリカ在住の作家。「不滅」でプリンプトン新人賞、プッシュカート賞受賞。2007年『グランタ』が「もっとも有望な若手アメリカ作家」の一人に選出。

 十分過ぎるほど書いてきた小説について、「いいな、書きたいな」と語る一方で、角田さんは、「小説は音楽と違い、人を楽にしたり、変えたりも救ったりもしない」と捉えているといいます。

(前文略)ただ小説って読んでいる間だけどどこか別の場所に行かせてくれるから、救ってはくれないけどそばにいるみたいなものなのかな、と思ったんです。(後略)
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXZZO49656240X11C12A2000000/

 

 角田さんは、『いつも旅のなか』などのエッセイでも知られるように、大の旅行好きでもあります。
 訪れた国は28カ国くらい。まとまった時間がとれるとそそくさと荷物をまとめ、恋人に会いにいくがごとく旅へとでかけるのです。

ラオスのホームレスタウンにいった時、商店が何軒かあったんです。(中略)青空床屋があったりとか。その中に本屋があったんです。(中略)そこではだしの、おしりを半分出したような子が本を読んでいるのを見て、あ、と思ったんですよね。水とかに比べたら、本なんて全然要らないじゃないですか。でも、食料品店の中に本屋が併設してあるのを見た時には、何かいい光景だな、と思ったんです
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXZZO49656240X11C12A2000000/

 

 まるで“生きるように”小説を書き続けている角田さんにとって、旅することもまた小説執筆の一部なのではないでしょうか。
 見知らぬ街の光景、匂い、音、その歴史さえも、彼女の目に触れ、彼女が胸に吸い込んだ瞬間、新しいドラマとなって溢れ出すように思えます。
 角田さんは「60歳までに“紀行文”を書いてみたい」という野望を抱いているといいます。その実現を願ってやみません。

(mami)

キラリと輝く名言

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▶▶【前編を読む】:書きたい作品と、作家としての作品の違いで思い悩んだ時代がありました。直木賞作家・角田光代【前編】

新たな “視点” で、
昨日よりもちょっといいワタシに。
―――― eyes.+