「好きという思いはそれだけで才能!」字幕翻訳家、戸田奈津子の「好き」を仕事にする極意【後編】

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▶▶【前編を読む】:「妥協するといつか後悔する!」字幕翻訳家、戸田奈津子の「好き」を仕事にする極意【前編】

 手がけた作品は1000本以上。字幕翻訳という職業を世間一般に知らしめた功労者、戸田奈津子さん。前編は、自分のやりたいことを貫こうと決意し、チャンスをつかむまでの姿にせまりました。後編は、「何かを本気で好きになること」が戸田さんの人生にもたらしたものをみつめます。戸田さんの生き方から、新たな一歩を踏み出すためのヒントをお届けします。

変わったきっかけ
コッポラ監督の推薦で「地獄の黙示録」の字幕を担当。映画は社会現象的なヒット作に

 やっとデビューを果たした戸田さんでしたが、プロとして認められるのはまだまだ先でした。7年もの間、字幕の仕事は年に2〜3本ほど。食べていけず、相変わらず通訳や、映画以外の翻訳のアルバイトの仕事を続けていました。

 そんなときに巡ってきたのが、有名なフランシス・F・コッポラ監督のガイド兼通訳という仕事でした。「地獄の黙示録」という映画の撮影中、日本をたびたび訪問していた監督をショッピングや食事へ案内するという役目です
 ところが、映画が完成して公開となったときに、戸田さんに字幕をという話がきたのです。コッポラ監督の推薦でした。

スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスを育てたコッポラは、あらゆる分野の新人たちに数えきれないほどサクセスの機会を与えてきた度量の大きな人です。私も、その視野のすみっこにひっかかったひとりだったのでしょう。もっともコッポラ自身は、私のためにひと言、口をきいてくださったことなど、とうの昔に忘れておられるとは思いますが……。出典:http://www.eigotrans.com/interview/toda/toda_03.shtml

 映画は公開と同時に大ヒット、社会現象的な話題になりました。この大作を手がけたことで、戸田さんはやっと洋画業界で字幕のプロと認められるようになりました。字幕翻訳家をめざしてから20年が経っていました。

(前文略)最初から20年と決まっていたわけではなく、結果として20年かかったという感じです。明日は何とかなるかもしれない、それにすがって毎日を乗り越えていました。(中略)ときどき新しい就職とか結婚とかを勧められるのですが、右か左かを突きつけられると、やはりこっち(字幕翻訳の道)しかないのです。(後略)
出典:http://ten-navi.com/contents/column/job_toda/page02.php

「もっと別な生き方があったんじゃないか」と、後悔の気持ちを抱いたことは1度もありません。なぜなら、「好きなことをやる」ことが、私の求めるいちばんの幸せだったからです。
出典:http://ten-navi.com/contents/column/job_toda/page02.php

「夢を追いかければ必ず叶うと言われているが、そんなことはない」、戸田さんは言っています。叶うか叶わないかは五分五分。ネガティブな部分も含めて、自分で決めたことだからそれでいいと判断してきたのだ、と。

 昨今では、好きなものがみつからないと悩む若者も多くいますが、何かを本気で好きになるということが、どれほど大きな原動力になるのかを戸田さんの人生を見て感じます。
 
 目標に向かって歩き続ける力、自分で責任を取るという強い意志……“好き”という思いは、それだけで“才能”なのだと、戸田さんの潔い言葉の一つひとつが教えてくれるようです。

今と、これから
旅するように映画の世界を散策。歯車の一つになりきって作品を支えていく

 「地獄の黙示録」以来、1週間で1本の映画を仕上げていくというペースが現在まで続いているという戸田さん。手がけた作品数は、およそ1000本にものぼります。
 「そんなにたくさんの映画をやっていて、飽きませんか」という質問をよく受ける戸田さんですが、答えは「NO」だと言い切ります。

「ミセス・ダウト」(93年/94年公開)でロビン・ウィリアムズの声音まじりのおしゃべりに、仕事をしながらひとりクスクス。しかしその一週間後には「シンドラーのリスト」(93年/94年公開)で、ユダヤ人とともに強制収容所のガス室の恐怖に身を震わせている。感情移入をしなければ、セリフをつくれませんから、(中略)いろいろな世界へトリップしているのです。飽きている暇などありません。
出典:http://ten-navi.com/contents/column/job_toda/page02.php

まるで旅をするように、それぞれが個性豊かな映画の世界を散策できる。字幕という仕事は、それがいちばんの魅力です。
出典:http://ten-navi.com/contents/column/job_toda/page02.php

 20年かけて夢を叶えた戸田さんですが、字幕翻訳という仕事に対し、今も厳しく謙虚な姿勢を貫いています。

うまい字幕というのは、最後まで字を読んだという意識を観客に抱かせないもの。もし字幕に意識がいくなら、それは字幕が下手なの。だから、字幕をやって「どうだ、うまいだろう!」と思うことはないですね
出典:http://www.cinematoday.jp/page/N0066943

 夢みることすら許されない時代に、マニュアルも持たず門のない世界に挑み続けた戸田さん。彼女の原点は、映画が好きで、画面の中の言葉を知りたい、話したいという少女の憧れでした。

 戸田さんは、子どもの頃を振り返れば、誰にでも好きだったことはあるはず、と言っています。
 もし何かに迷ったら、子どもの頃を思い出してみてはどうでしょう。
 何が好きだった? どんな夢を見て、何に憧れていた?
 それは、高い壁を乗り越えたり、新たな一歩を踏み出すキッカケになるかもしれません。
(mami)

キラリと輝く名言

作品の1本1本に関わるとき、自分は小さな歯車のひとつになっていると感じる。日本人が洋画を見るときに欠かすことのできない 「字幕」という歯車に。

▶▶【前編を読む】:「妥協するといつか後悔する!」字幕翻訳家、戸田奈津子の「好き」を仕事にする極意【前編】

新たな “視点” で、
昨日よりもちょっといいワタシに。
―――― eyes.+