【前編】作家になりたい意志はなかった……。普通のOLから直木賞作家に変身した唯川恵が飽きずに続けていたこととは

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 2002年に直木賞、2008年には柴田錬三郎賞を受賞した唯川恵さん。作家になって30年。恋愛小説にとどまらず、サスペンス、ホラー、と多彩な作品を発表し続ける彼女の、好奇心を失わず、変化を恐れない生き方を見つめます。

ワタシのあの頃
OL10年を経て作家に。しっくりこない日常を日記に綴ったことが「書くこと」の始まり

 唯川さんは石川県金沢出身。短大を出て銀行に就職。小説はベストセラーを読む程度の普通のOLで、皆と同じように結婚して子どもを産むのだろうと当たり前のように思っていました。

作家になる前、10年間OL生活をしました。〔中略〕でも、何となく普通に生きてきたつもりなのにうまくいかず、一人でできる趣味を見つけようと、たくさん習い事をしました。何かしっくりこなくて、気持ちをノートにつづっていました。書くことへの思いが芽生えたきっかけだったかもしれません
出典:http://www.jti.co.jp/knowledge/forum/2014/0926yuikawa/index.html

会社が嫌だとか、会社に行きたくないのが問題なのではなくて、他に自分の楽しめるものを持ってないから全てが嫌になってしまっていたんです。
出典:http://www1.e-hon.ne.jp/content/sp_0031_yuikawa.html

 しっくりこない日常の気持ちをノートに綴ることで、唯川さんの中で何かが変わっていきました。
 やがて彼女は小説を書こうと思うようになります。

(前文略)改めて考えてみると、書く事だけは飽きずに続いている、ということに気づいて、じゃあ、もう少しきちんとした形で何か書いてみよう、と思ったわけです。
出典:http://www.sakuranbo.co.jp/livres/sugao/2012/05/post-18.html

 仕事の傍ら小説を書いて応募する生活が始まりました。最初は純文学や童話も書いてみましたが、まったく受かりませんでした。

 何か間違えてないか? 自分が書けるものは何だろう? 書きたいものは?……唯川さんは考え始めます。そして、29才のときにコバルト・ノベル大賞に応募、見事に大賞を受賞しました。

その時は、投稿しているこ自体が楽しかったので、作家に絶対なりたいという強い意志まではなかったですね。というか、現実感がなかった。だから、作家になることを意識し始めたのは、デビューしてからです。
出典:http://www.sakuranbo.co.jp/livres/sugao/2012/05/post-18.html

 意識する間もなくジュニア小説の人気作家になった唯川さん。最初の1年は半年に一冊を執筆という割合でしたが、2年目からは300枚の作品を年に4冊執筆という割合になり、OLを続けられなくなりました。

 唯川さんのジュニア小説は売れ、25冊も書きましたが、ずっと順調ではありませんでした。書いていた学園ラブコメディが下火になり、5、6年すると新しい作家のミステリやファンタジーが主流になってきたのです。生活が不安になって、新聞の求人募集欄を眺めることもありました。

 不安になったのは生活だけではありませんでした。求められるまま書いてきて、作品と自分との間にギャップを感じ始めていたのです。年齢もあるでしょう。ジュニア物では書けない題材も多く物足りなさもあったでしょう。それでは今私の書きたいものは何だろう?……唯川さんは、再び自分自身に問いかけます。そして、方向転換を決意しました。

変わったきっかけ
評価されない葛藤と闘い続け、デビュー17年で直木賞受賞!

 
 唯川さんは大人向けの小説を書き始めました。ホラー、サスペンスと、今までとは違う分野の小説に挑戦し、どんどん脱皮していきました。その後、ふとしたきっかけで恋愛小説に移行し、「ベター・ハーフ」や「病む月」のヒットで、“恋愛小説の名手”とまで言われるようになります。女性の読者に大きな支持を得ますが、同時に、恋愛小説への先入観という弊害も生まれました。

恋愛小説という肩書きはとても難しくて、先入観を持たれることが多いんです。(中略)「色恋もの」で一括りにされてしまい、読んでもらえなかったりする。
出典:http://www.sakuranbo.co.jp/livres/sugao/2012/05/post-18.html

 唯川さんの作家人生は「とんとん拍子」というように言われることが多いのですが、直木賞受賞までの道のりは長く、甘いものではありませんでした。デビューから17年……その間一度も賞にノミネートされたことはありません。

書けば誰かに褒めてほしい、というのは普通の感覚でしょう。ただ、評価ばかりを考えているとつらくて書けません。(中略)何よりも、まずは書いている自分が、この小説は面白いと思い込むしかないでしょう。賞や評価のことは、プラスアルファと捉えておくのがいちばんなんじゃないでしょうかね。
出典:http://www.sakuranbo.co.jp/livres/sugao/2012/05/post-18.html

 ベストセラー作家になっても、批評家からは思ったような評価が得られませんでした。それでも唯川さんが「恋愛小説」を書き続けたのには理由があります。

恋愛小説ではあるけれど、私としてはむしろ「女性」を書きたいという思いが強いんですよね。
出典:http://www1.e-hon.ne.jp/content/sp_0031_yuikawa.html

(前文略)女性と話をしていて、仕事も家族も大事だし、健康も家計も気になる中でも、いくつになっても恋愛というのは大きなテーマだなと思いますね。
出典:http://www1.e-hon.ne.jp/content/sp_0031_yuikawa.html

 自分が変化すれば、したなりの視線で女性を見つめ続ける唯川さん。女性から圧倒的な支持を得た理由は、この姿勢にあるのではないでしょうか。読者から恋愛相談を多く受けるということからも、彼女の小説に自分を投影する女性が多いのがうかがえます。

 それでも、ヒット作は多いのに見合う評価がないことで悶々としていた唯川さんが、もう評価にこだわるのはよそうと肩の力を抜いて書いたのが「肩ごしの恋人」でした。この作品で見事直木賞を受賞。2002年、46歳のときでした。
 けれども授賞は到達点ではありませんでした。そこからまた唯川さんは変化していくのです。

(mami)

▶▶【後編へ続く】

新たな “視点” で、
昨日よりもちょっといいワタシに。
―――― eyes.+