【中編】どうして女性は張り合うのか。華岡青洲の麻酔薬研究を支えた妻、加恵と姑の「命を削る争い」

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出典:Wikipedia

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変わったきっかけ
夫の研究のために失明、そして勝ち得た夫の愛。一方、息子を奪われた姑の老いと死

 一人娘を亡くした加恵は、その悲しみから逃れるために二度目の人体実験を申し出ました。
 一度目に飲んだ強すぎる薬の副作用が悪化し、加恵は目覚めたのちに失明します。
 光を失った嫁に向ける息子の献身を目の当たりにし、姑は自分の老いと敗北を悟り、にわかに衰えて亡くなってしまいました。

 加恵は待ち望んだ息子を授かります。青洲は初の麻酔薬を用いた乳がん手術へと乗り出しました。
 しかしそれと時を同じくして、嫁がずに華岡家に人生を捧げていた妹、小陸が死病に冒されました。死の床で、小陸は義姉に「失明を後悔していないのか?」と訊ねます。
「後悔していない」と答えた加恵に、小陸は言い放ちました。

「それは嫂さんが勝ったからやわ」
出典:『華岡青洲の妻』

さらに、こう言い切ります。

「私の一生では嫁に行かなんだのが何に代え難い仕合せやった」
出典:『華岡青洲の妻』

 嫁姑の確執は、いつの世になっても消えることはありません。加恵のように怒りや恨みを抱える女性は少なくないでしょう。
「自分を産んだ女と、自分の子供を産む女」(『華岡青洲の妻』より)を選ぶ天秤に、男性はいつでも苦しめられます。
 人間として本来天秤にかけるべきではない両者が、自ら無理やり天秤皿の上に乗ってしまう……青洲ほどの学者でも、男は男。
 そして皮肉にも、激しく揺れるふたりの女の天秤が、青洲に偉業を成し遂げさせたのです。

(河野真知子)

▶▶【後編へ続く】
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新たな “視点” で、
昨日よりもちょっといいワタシに。
―――― eyes.+