【前編】どうして女性は張り合うのか。華岡青洲の麻酔薬研究を支えた妻、加恵と姑の「命を削る争い」

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出典:『華岡青洲の妻』

出典:新潮社

 今回は夫の麻酔薬開発のため自ら被験者となって失明したことで知られ、有吉佐和子作『華岡青洲の妻』のヒロインとして描かれた華岡加恵の、献身の影にあった嫁姑の確執と、華岡家を取り巻く女たちの生き様について見つめます。

ワタシのあの頃
憧れの女性から娘のように愛された嫁…嫁姑の幸せが絶望に変わる「夫と息子」の争奪戦

 加恵は名手本陣という名門の娘として生まれました。才色兼備で名高い女性・於継に憧れ、その息子青洲が遊学中に、花婿不在のまま貧乏医家の華岡家に嫁ぎます。
 憧れの姑、於継に可愛がられ、義理の妹たちとも仲良くなって数年、やっと夫である青洲が遊学から帰りました。
 その瞬間、実の母のように慈しみ深かった姑は、ひとりの男をめぐる冷徹なライバルに変わってしまいます。

 青洲が遊学から戻ったとたんに、姑は手のひらを返したように冷たい態度をとります。加恵にとってその仕打ちは、天災のように逃れられない、つらく恨むべきものでした。
 ではなぜ、美しく賢いことで評判の姑は、突然そんな仕打ちをしたのでしょう。

 麻酔薬開発の最終段階に来たとき、姑は人体実験の被験者に名乗りをあげ、加恵も負けじと手を挙げました。

青洲はチョウセンアサガオに数種類の薬草を加え、動物実験だけでなく母於継と妻加恵の協力による人体実験を繰り返し、実に20年の歳月をかけて通仙散を開発しました。
出典:http://www.wakayama-med.ac.jp/med/bun-in/seishu/anesthesia.html

 はた目からは、青洲の研究のために争って命をかける嫁と姑は、美談としか見られませんでした。

 でも、この頃ふたりの女の間にあるのは、青洲という「男」にとってどちらが価値のある「女」か、という冷たい競争心だけになっていました。

 しかし聡く慎ましいふたりの水面下の冷戦が、周囲にさとられることはなかったのです。
(河野真知子)

▶▶【中編へ続く】

新たな “視点” で、
昨日よりもちょっといいワタシに。
―――― eyes.+