【前編】夫の裏切り、謎の失踪、記憶喪失。「ミステリーの女王」アガサ・クリスティが孤独を乗り越え、たどり着いた境地とは

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 今回は、世界的なベストセラー作家、「ミステリーの女王」と呼ばれるアガサ・クリスティの素顔と、謎に満ちた生涯をたどります。

ワタシのあの頃
学校に通うことなく、母の教育と読書で知識を深めた少女時代

 アガサ・クリスティ(アガサ・メアリ・クラリッサ・クリスティ)は、1890年にイギリスの中流階級の家庭に生まれます。三人兄弟の末っ子だったアガサは、母クララの教育方針により幼い頃から学校へは行かず、7歳まで字を教わることなく成長しました。

母クララの教育に対する不思議な信念は大きな影響を幼いアガサに与えた。例えばクララは「7歳になるまでは字が書けない方が良い」となぜか信じており、アガサに字を教えなかった。実際アガサは一般の子供より識字が遅く、父がこっそり手紙を書く手伝いをさせるまで満足に文字を書けなかった。
出典:http://bushoojapan.com/scandal/2014/10/27/33150

 そんな特殊とも言える環境の中で同年代の友人ができるはずもなく、アガサは部屋でひとり空想したり、父親の書斎にある本を読むことで少女時代をすごしたのです。それから、自然と自分でも詩や小説を書くようになりました。

幼少期からなかなかのインテリであったようで、当時から本に親しみ、コナン・ドイルの小説などもよく読んだという。自分でも詩やおとぎ話を書き、それらを地元の大作家イーデン・フィルポッツの元に持ち込んで批評を仰いだこともあった。
出典:http://www1.jcn.m-net.ne.jp/rays_room/Critique/Christie/Christie_Frame.html

 誰もが知る有名な作家が、7歳まで字を覚えず過ごしたことに、意外に思う人も多いと思います。「変わり者」としてある意味有名だった母クララは、自分の信念を曲げることなくアガサを育て、アガサもまたそんな母の事を慕い、尊敬していたようです。それはきっと、「人と違う」ことを恥じることなく、母なりの愛し方で接していたことが、アガサにもちゃんと伝わっていたから……かもしれません。
 そして、クララがいたからこそ、アガサの「ミステリー作家」という、ある種特異な才能を開花させることができたのではないでしょうか。

変わったきっかけ
戦地での結婚、夫の裏切り、そして、謎の失踪事件――

 1914年、ときは第一次世界大戦の最中。救急看護奉仕隊として戦地におもむいたアガサは、そこで空軍パイロットであるアーチボルト大佐と結婚します。また、このときに得た毒薬の知識が、後の作品に深く影響を与えたと言われています。

クリスティの作品では、殺人現場での血の描写が殆ど無く、毒殺というトリックが多い(66作中の半数を占めます)のは、こうしたアドバイスと戦争体験のせいかもしれませんね。実際、看護師を経験後、薬剤の処方資格を得ているぐらいです。
出典:http://bushoojapan.com/scandal/2014/10/27/33150

 数年後、ヒット作に恵まれ順風満帆に見えたアガサに、最愛の母の死と夫の浮気という、ふたつの悲劇がおそいかかります。そして、突然の失踪で大スキャンダルに……。11日後にようやく宿泊先のホテルで発見されますが、「記憶喪失の状態」として最後まで真実は謎のままでした。

「彼女は完全に記憶を失っており、自分が誰であるかもわからない状態です。私のこともわからない様子ですし、何故ハロゲートに来ているのかということすらわかっていないのです……」
出典:http://enigma-calender.blogspot.jp/2013/12/agatha-eleven-missing.html

 この失踪事件はミステリーの世界では有名な出来事で、『Agatha Eleven Missing(アガサ・クリスティ11日間の失踪)』と言われています。1979年には『アガサ 愛の失踪事件』という邦題で映画にもなっており、世間の関心の高さがうかがえます。
 アガサ自身はこのことについて一切語ることなく、インタビューでも絶対に触れてはならないと徹底されていたようです。理由としては、夫の浮気に対して行った計画説、本当に記憶喪失だったという説……色々ありますが、すでにアガサが他界している今、このミステリーの真相は今後も決して明かされることはないでしょう。
(小森矢 羽美)

新たな “視点” で、
昨日よりもちょっといいワタシに。
―――― eyes.+