なぜジャーナリストは戦地に向かうのか? シリアで銃弾に倒れた戦場ジャーナリスト・山本美香の信念

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 今回は、15年以上にわたり、世界の紛争地から戦禍の惨状や、戦地に生きる女性と子供を取材し続けた女性、ジャーナリスト・山本美香さんの、報道への想い、信念を見つめます。

ワタシのあの頃
「やりたいことって何だろう?」父の影響で漠然とマスコミの世界へ

 新聞記者の父の影響で漠然とマスコミに憧れ、CS放送局に就職。働きながら、「自分が本当にやりたいこと」が見つかればいい、そう考えていました。ものすごくハードで、残業時間が200時間を超えることもありましたが……。

当時はそれが苦じゃなかったんですよ。勿論体力的に辛いというのはあったけど自分がやりたかった仕事だし、毎日が発見と学びの連続ですごく楽しかったから。
http://www.nadeshiko-voice.com/interview/mika-yamamoto/

 そこで、自分でビデオカメラを持って取材する、ビデオジャーナリストという仕事と出会います。「人の作品を作り上げるだけでなく、積極的に現場に出て、自分の取材をしていきたい」と思い、フリーランスの道を選択。その後、独立系ジャーナリスト組織に所属します。

変わったきっかけ
アフダニスタンの女学生と会い、「報道の姿勢」「信念」が固まる

 初めての紛争地取材は、アフガニスタンでした。そこで、学校も仕事も禁止されている中、ひそかに勉強を続ける女子大生グループと出会います。「なぜ、こんな状況で勉強を続けるのか?」と質問すると、彼女たちはこう答えました。

こんな状況がずっと続くわけじゃない。平和になってから国造りをするのは私たちだから、今勉強しなくてはいけないんです。
出典:http://ameblo.jp/touko-shirakawa/

 そして、取材を受けるのが禁止されている中で、全員顔を出すことを了承してくれます。バレれば厳しく処罰されるのは確実です。

出してください。世界に伝えてください。逮捕される危険よりも、私たちのしていることが誰にも知られず終わることのほうが怖いんです。
出典:http://ameblo.jp/touko-shirakawa/

 絶望的な状況の中、懸命に生きる人たち。この時、山本さんの報道の姿勢が固まります。「戦争」でなく、「人」を見て、伝えよう。

 アフガニスタンの女子大生の話を聞き、山本さんは心を揺さぶられました。戦争を起こすのも「人」、戦争に翻弄されるのも「人」。戦地で生きている人のことをどう伝えれば、より興味を持ってもらえるのか。深く考えてもらえるのか。山本美香の挑戦が始まります。

アフガニスタン

 テレビは過激でわかりやすいものを取り上げたがります。現場が安全でも、防弾チョッキを着るように頼まれることもありました。そのことを十分理解した上で、山本さんはできる限り事実を、フラットに伝えようと心掛けていました。

「美香さんの思う、信用できる記者とは?」という質問に彼女はこう答えています。

特殊な情報を報じているからと、上から目線にならないことだと思います。だって批評とか批判をすることって簡単ですよ。(中略)二極論じゃなく、グレーゾーンもある。「で、あなたはどう思いますか?」って考える材料を提示したい。
出典:http://c.filesend.to/

問題の正解は一つではないのです。
出典:http://www.huffingtonpost.jp/

 紛争地に女性が行くことには危険が付きまといます。誘拐やレイプされる危険も……。一方で、女性であるメリットもありました。イスラムの世界では、女性たちの世界に男性は入れません。つまりそれは、女性報道記者・山本美香にしかできない取材があるということでした。

 報道の仕方によっては、聴き手側の考えや意見は180度変わることもあります。山本さんが目指したのは、「自分の目で見て、自分の耳で聞いたことを、ありのままに伝える」という報道スタイルでした。事実を伝えることで、“問題提起”につながり、世界を変わるきっかけに――。そんな想いがあったのではないでしょうか。

ワタシの信念
報道で、伝えることで、社会を変えてみせる

 2003年度には、優れた報道で国際理解に貢献したジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞 特別賞」を受賞。2011年には日本の外交分野の「仕分け人」に選ばれるなど、日本のジャーナリズムをけん引する存在になっていました。

 山本さんは、夢・ジャーナリストの仕事についてこのように話しています。

私自身、ビジョンとか目標をあまり意識したことがないんですよ。目の前にあることをひたすらこなしていって、その先のことはその時になったら考える。フリージャーナリストとしての活動も初めから目標としていたわけではありません。目の前の仕事をクリアして、ステップを踏んでいくうちに、今の道にたどりついたという感じ。まだまだ途上ですが。
出典:http://www.nadeshiko-voice.com/

たくさんの人の死を見聞きしても「自分は死なない」と暗示をかけています。…生きて帰ってリポートするのがお仕事だから。
出典:http://c.filesend.to/

 しかし、2012年8月20日、内戦状態にあるシリアで銃撃戦に巻き込まれてしまいます。享年45歳。短すぎる人生でした。

 ジャーナリストの悲しい事件が起きるたび、「そんな危ないところに行く必要があるのか」という声もあがります。でも、そこで何が起こっているのかは、ジャーナリストが現地に行き、伝えないとわからないのです。

伝え、報道することで社会を変えることができる。私はそれを信じています。
出典:http://www.huffingtonpost.jp/

世界の安定はつながっている。日本にいる人にとっても、遠い国の人ごとではないのです。生まれた場所、時代が違うだけで、同じ人間がひどい目にあっていることを、ちゃんと見てほしい。想像してほしい。
出典:http://ameblo.jp/touko-shirakawa/

 危険と常に隣り合わせの暮らしをしている人だからこそ抱ける信念というものがあります。山本さんが出会ってきたアフガニスタンの女性たちや、報道の現場で命を落とした人たちの姿や言葉は、いつも山本さんのスピリッツを刺激してきたのでしょう。

 誰かの信念に出会うことで生まれた信念が、ひとりの生涯を貫いたとき、また新しい他の誰かの信念を生み出していく――。懸命な想いは連鎖するのです。わたしたちが彼女から学べるもの、引き継げるものは無限に存在します。山本さんの信念を記事にすることで、ひとりでも多くの女性に彼女の信念を受け継いでくれたらと願っています。

キラリと輝く名言

報道で、伝えることで、社会を変えてみせる。

新たな “視点” で、
昨日よりもちょっといいワタシに。
―――― eyes.+

【参考記事】

一般財団法人 山本美香記念財団
2012年8月20日、シリアで凶弾に倒れたジャーナリスト・山本美香さん――彼女についての4つの質問(huffingtonpost)
「ジャーナリズムと戦争」講義録(現代ビジネス)
【追悼】山本美香さんインタビュー(日経WOMAN)
山本美香さんインタビュー(NADESHIKO VOICE)
追悼、山本美香さん:インタビュー記事全文(白河桃子ブログ)
「戦争ジャーナリストではなくヒューマンジャーナリスト」紛争地の女性、子供ら伝える(47トピックス)
第8回 山本美香氏(国際ジャーナリスト(プロフェッショナルの唯言)